第12回 ゆいの森あらかわ(荒川区立中央図書館) in のレポート

「人生に、文学を。」オープン講座

【in ゆいの森あらかわ 2018年6月23日(土)】

第12回目の講師は、石田衣良さん。雨がそぼ降るしっとりとした下町・町屋の「ゆいの森あらかわ」で開催されました。2017年にオープンした「ゆいの森あらかわ」は、今回の会場の荒川区立中央図書館に加え、吉村昭記念文学館、ゆいの森子どもひろばが一体となった複合施設で、子どもから大人までが楽しめる文化交流拠点となっている。気持ちの良い木と本のかおりに包まれた会場に登場した石田さん。今回のテーマは、「東京のアップ&ダウン~小説で街を描く~」。下町出身で以前町屋にも住んでいた石田さんから、山の手と下町の作家とその作品の特徴を比較しながら、自身の創作の原点を語っていただいた。

第12講 講師 石田衣良さん
「東京のアップ&ダウン~小説で街を描く」
司会進行 羽鳥 好之(文藝春秋)

石田衣良さん講義より抜粋

下町は山の手より圧倒的に作家が多いように思う。僕の出身の両国高校(旧制府立三中)だけでも、芥川龍之介、堀辰雄、立原道造、久保田万太郎など錚々たる顔ぶれだ。そして今回の課題本の作者「半村良」も高校の先輩にあたる。下町に作家が多いことには様々な理由が挙げられるが、その大きな理由としては「コミュニティの中での作家の地位」が考えられる。山の手に生きる者にとっては、作家は資本社会からはずれた脱落者として捉えられていたが、下町では文字を扱う作家は、尊敬の眼差しで迎えられ、そこに作家の生きる場所があったと考えられる。

第12講 石田衣良さん

また下町と山の手の面白い部分は、僕のような下町出身の作家は、山の手に関心を抱くのに対し、山の手出身の永井荷風は「滅んでしまったモノ」として江戸のにおいのする下町文化を愛している。このように作家は「別の文化に生きたい」というある種、あまのじゃくの部分を持っているものである。

今回、半村良/永井荷風の二人を選んだのは、半村が下町出身なのに対し、荷風は山の手出身で、作品にもその特徴が表れている。荷風の『濹東綺譚』は文章にものすごい量のエネルギーを使っており、美しい文体を築き上げている。それに対し、半村は物語を生み出すことに最大限の力を尽くしており、新しい世界観を生み出している。僕はこの荷風に現れる「文体の美しさ」と、半村が生み出す「物語のエンタメ力」の狭間を行き来しながら、常に作品を作っている。また荷風・半村ともに持つ「POPさ」というものも、僕は大きく引き継いでいる(このPOPさを説明するのは難しいのですが)。「文体」「物語性」「POPさ」は、作品を作る上での僕の大きな三本柱となっている。

第12講 石田衣良さん

イントロダクション

「半村良『石の血脈』を初めて読んだのは、今でも忘れない15歳の大晦日だった。紅白歌合戦に興味の無かった僕は、朝まで夢中で本を読みながら年を越したのだった。面白い作品を味わえた喜びに加え、半村さんが高校の先輩だった奇跡に心躍らされたのを今でも覚えている。」と本との出会いを語る石田さん。現在毎日新聞で連載中の東京大空襲をテーマに描く『炎のなかへ』の執筆状況や、今「本」というメディアが抱える課題等を軽やかに語っていただきました。

イントロダクション

石田衣良さんの講義はコチラ

第12講 「東京のアップ&ダウン~小説で街を描く」

講座日時 2018年 6月23日(土)14:00~16:00
募集人数 100名様
石田衣良さん メッセージ 東京の山の手と下町出身の作家の特徴を比較しながら、ぼく自身の創作の原点と舞台としての東京の魅力を語ります。
課題図書 こちらの「課題図書」2冊を必ずお読みの上、ご参加ください。
『濹東綺譚』
永井荷風著
角川文庫
『濹東綺譚』 永井荷風著 角川文庫
『石の血脈』
半村良著
集英社文庫 /ハルキ文庫
『石の血脈』 半村良著 集英社文庫 /ハルキ文庫『石の血脈』 半村良著 集英社文庫 /ハルキ文庫

石田衣良プロフィール

1960年、東京生まれ。

成蹊大学経済学部卒。広告制作会社を経て、フリーランスのコピーライターに。97年、「池袋ウエストゲートパーク」でオール讀物推理小説新人賞を受賞する。本作を収録した同名の単行本は、若者を中心とする都市の新しい文化、風俗を活写した作品として高い評価を受け、TVドラマ化もされて大きな話題となった。以降、「IWGPシリーズ」は13巻を数える。2003年、『4TEEN』(新潮社)で直木賞、06年、『眠れぬ真珠』(新潮社)で島清恋愛文学賞、13年、『北斗 ある殺人者の回心』(集英社)で中央公論文芸賞を受賞する。主な作品に『水を抱く』(新潮社)『MILK』(文藝春秋)など。初期の代表作『娼年』が映画化、2018年4月から公開されている。