「人生に、文学を」オープン講座 in 立命館大学のレポート公開中!

「人生に、文学を。」オープン講座

【in 立教大学 2019年4月20日(土)】

第15回目の講師は、今年作家生活30周年を迎える上橋菜穂子さん。会場は母校の立教大学 太刀川記念館。4月の陽光がまぶしい気持ちの良い午後、会場は全国からつめかけた熱烈なファンでうめつくされた。3月に、本屋大賞受賞の名作『鹿の王』の続編『鹿の王 水底の橋』が出版され、新しい世界を生み出し続ける上橋さん。今回のテーマは「物語の魅力の底にあるもの」。ファンタジーとカテゴライズされる物語が、なぜ文化も時代も超えて世界中で愛され続けてきたのか。作家になるきっかけの一つとなった『指輪物語』と、ご自身の作品『鹿の王』を通して、物語のもつ魅力についてお話しいただいた。

第15講  講師 上橋菜穂子さん
「物語の魅力の底にあるもの」

上橋菜穂子さん講義より抜粋

私の人生を変えた本は二つある。一つはローズマリー・サトクリフの本、そしてもう一つが今回テーマにするJ.R.R.トールキンの『指輪物語』だ。私にとってこの『指輪物語』の読書体験は異様な経験で、物語の中に入り込んでしまい、出てこられなくなってしまった。

第13講 東山彰良さん

トールキンはオックスフォード大学でアングロサクソン語の教授を務めながら、1937~1949年の12年をかけて『指輪物語』を書き上げた。この物語はアメリカで出版された後、評価が真っ二つに分かれた。
詩人のW・H・オーデンはNYタイムズの書評で「過去5年間の中で一番面白かった」と絶賛したのに対し、文芸評論家のエドモンド・ウィルソンはこの作品を強く否定している。「善と悪という構図がステレオタイプだ」と批判したのに加え、これが児童書ではなく、大人の文学として出版されたことに対して怒りをにじませた。

第13講 東山彰良さん

『中つ国の詩と歌』という朗読レコードの宣伝文句に、オーデンはこのような言葉を残している。「この作品(指輪物語)は、あなたを虜にするか、もしくは全く心を魅かれない」。この言葉にあるように、文学にとって、好きか嫌いかということは実際にはとても重要なことで、多くの人たちが様々な好みを持っているからこそ、「多様な面白さ」が広がっていくと思う。

「多様な面白さ」に加えて、物語というものを考える上でもう一つ重要なのが「ステレオタイプ」をどう捉えるかということだ。文学の中にはステレオタイプと言われるものがあり、今回の『指輪物語』や、『ゲド戦記』『ハリー・ポッター』『スター・ウォーズ』にも共通に見られるものに「ヒーローズ・ジャーニー」というものがある。辺境にいる恵まれない若者のもとに、導き手が現れ、旅に出る。そこで生涯の敵と出会い、それを打ち倒すという物語構造は、世界中で熱狂的に支持されるステレオタイプの一つだ。ただこのようなストーリーが陳腐かというと、そんなことはない。そこには作家の生み出す物語の世界が反映されているからだ。作家にとって、このステレオタイプの力というものは、魅力的がゆえに、恐ろしいモノだ。そのまま使うと、容易に陳腐になるのに加え、差別や偏見の温床にもなる。作家はこの力に対して、冷めた目を持ちながら、その力をうまく使わなければならない。そのためには表層の意識ではなく、魂の底に下りて、心の中にたまったスープのようなものから、自分の物語を生み出すことが大切になってくる。

第13講 東山彰良さん

イントロダクション

物語を書くということは、自分の深いところに降りていって、ある種の没頭した状態になることが必要だ。物語が動いていく時は、もう一人の自分に任せていないとありがちになってしまう。後でゲラを見て「誰が書いたのだろう」とさえ思い、二度と同じものは書けないと思う。それはトールキンも同じだと今回様々な評論を経て知ることができた。
私もトールキンがやってきたように、物語が進んでいきたい道を歩ませてあげたい、そして物語を育てるように書いていきたいと願い続けている。

イントロダクション

上橋菜穂子さんの講義はコチラ

第15講 「物語の魅力の底にあるもの」

講座日時 2019年 4月20日(土) 14:00~16:00
募集人数 100名様
上橋 菜穂子さん メッセージ 「ファンタジー」とカテゴライズされる物語は、逃避文学であると軽視されたこともありましたが、世界各地で生み出され、文化も時代も超えて愛され続けている作品もあります。
そういう物語は、なぜ愛され続けるのでしょう? ずっと私の心の中にあり、いまもなお正体を掴むことができない「物語の魅力」の底に目を凝らし、気づいたことなどをお話ししたいと思います。
課題図書 こちらの「課題図書」2冊を必ずお読みの上、ご参加ください。
『指輪物語』
<旅の仲間><二つの塔>
<王の帰還>
J.R.R.トールキン著
瀬田貞二訳
評論社文庫
『指輪物語』<旅の仲間><二つの塔><王の帰還> J.R.R.トールキン著 瀬田貞二訳 評論社文庫
『鹿の王』全4巻
上橋菜穂子著
角川文庫
『鹿の王』全4巻 上橋菜穂子著 角川文庫

1962年東京生まれ。立教大学文学部卒業。文学博士。川村学園女子大学特任教授。1989年『精霊の木』で作家デビュー。著書に『精霊の守り人』をはじめとする「守り人」シリーズ、『狐笛のかなた』『獣の奏者』『鹿の王』など。路傍の石文学賞、野間児童文芸賞、本屋大賞、日本医療小説大賞など数多くの賞に輝き、2014年には小さなノーベル賞といわれる国際アンデルセン賞作家賞を受賞する。